㈱ココカラファインのドミナント戦略

ココカラファイン

「M&A情報広場 by INCGROW」(https://ma-jouhouhiroba.jp/)に本日掲載された当事務所代表の寄稿した記事です。

戦略的M&A

東証1部上場で関東では関東「セイジョー」、関西「セガミ」などのドラッグストア、調剤薬局、介護事業所を展開している㈱ココカラファインは、東京都で調剤薬局・介護事業所を展開する㈱シニアコスモスの全株式を平成29年7月3日に株式譲渡により取得する予定と発表しました。

取得価格は非公開です。

異動する子会社の概要は下記のとおりです。

(1)商号  株式会社シニアコスモス
(2)代表者  宮﨑 文江
(3)所在地  東京都新宿区四谷2-5-4
(4)設立年月日  1989年5月2日
(5)事業の内容  調剤薬局・訪問介護サービス、居宅介護支援サービス等
(6)資本金 30百万円
(7)発行済株式総数 600株
(8)株主 テスコ株式会社(100%保有)


株式取得の理由は、下記のとおりです。

当社は、医療に携わる多職種協働により地域における在宅医療などを一体的に提供する「地域におけるヘルスケアネットワークの構築」を社会的使命と位置づけ推進しております。当取引により、エリアにおけるドミナントを深耕するとともに、調剤事業と連携した訪問介護・居宅介護支援事業の拡大、及び既存介護事業の拡充を図り、「地域におけるヘルスケアネットワークの構築」を加速させ、「人々のココロとカラダの健康を追求し、地域社会に貢献する」という経営理念の実現を目指してまいります。

M&Aによる介護事業の再建

㈱ココカラファインの平成29年3月期の介護事業の業績は同連結会計年度の有価証券報告書において次のような説明がされており赤字事業となっています。したがって介護事業の赤字解消のため黒字の介護事業所を有している会社を買収し介護事業の再建を図ったものと推測されます。

「訪問看護と機能訓練型リハビリデイの複合施設の収益化や本部費用の効率化などにより収益改善を図りましたが、訪問看護事業における先行投資や人件費高騰等の影響をカバーすることができず、平成29年3月期の売上高(連結)は2,410百万円(前連結会計年度比7.5%増)、セグメント損失(営業損失)は前連結会計年度比8百万円減の79百万円となりました。」

また、赤字となっていたと推測される介護事業所に関しては、平成29年4月1日にこれまでココカラファイングループの㈱ファインケアが運営していた埼玉県、茨城県の9ヶ所にある介護事業所が株式会社ソラストに事業譲渡されています。

この結果、ココカラファイングループの介護事業所は東京都に集約され、エリアのドミナントが深耕されました。

M&Aによるドミナント戦略の展開

ドミナント戦略とは、チェーンストアが地域を絞って集中的に出店する経営戦略です。ドミナント戦略が成功すれば、同一商圏内で市場占有率を高めることにより知名度向上やコスト削減が効率的に行えます。

㈱ココカラファインはドラッグストアを1,293店舗(内238店舗調剤取扱)出店していますが、調剤薬局は11店舗、介護事業所は埼玉県、茨城県、東京都にしかないため、全国の8割の地域に出店し各地域で相当数の店舗を出店しているドラッグストアと比較すると調剤薬局と介護事業所はドミナント戦略におけるドミナントが進んでいない模様です。そこで調剤薬局と介護事業に強みを持つ㈱シニアコスモスに白羽の矢を立てたものと推測されます。

ただし、買収した㈱シニアコスモスの売上高は、平成27年3月期:666百万円、平成28年3月期:631百万円、平成29年3月期:574百万円と年々減少しているため、ドミナント戦略により東京での介護事業の業績を向上させるとともに、ココカラファイングループが取り組んできた地域医療と緊密に連携した介護事業を展開していくことや、来店が困難な患者向けに在宅服薬指導を行うなど調剤事業と介護事業の連携を図っていくことが急務であると思われます。

㈱ダイヤモンドダイニングによる㈱商業藝術買収の経営判断

ダイヤモンドダイニング

「M&A情報広場 by INCGROW」(https://ma-jouhouhiroba.jp/)に本日掲載された当事務所代表の寄稿した記事です。

飲食業同士のM&A

飲食チェーンの㈱ダイヤモンドダイニング(東証1部上場)は、広々とした小上がり席でくつろげるカフェ「chano-ma」、京都おばんざいをメインにした和食店「石塀小路豆ちゃ」の業態をはじめとした飲食店等を展開している㈱商業藝術の発行済全株式を18億円で取得し完全子会社化しました。

買収された㈱商業藝術は、平成5年の創業以来、上述の「chano-ma」「石塀小路豆ちゃ」の他、開放的な海沿いのゲストハウスウェディングの「CASA FELIZ」等、広島県をはじめ関東圏、中部圏、関西圏、福岡県など幅広いエリアで事業を展開し、平成29年3月末現在、国内にて 飲食直営店舗80店舗、結婚式場1店舗、美容室2店舗の合計83店舗を運営しています。

なお、㈱ダイヤモンドダイニンググループは、平成7年6月の創業以降、現在は飲食事業を中心に、アミューズメント事業、ウェディング事業へも事業領域を拡大し、平成29年3月末現在、国内外合わせて274店舗(持分法適用会社の株式会社ゼットンを含めると340店舗)を直営展開しています。

この買収にはどういった経営判断があったのでしょうか。

㈱商業藝術の平成28年9月期の売上高は7,616百万円、経常利益は163百万円、経常利益率は2.16%でした。買収の直近期の経常利益率を比較すると、平成29年2月期の㈱ダイヤモンドダイニングの経常利益率は4.7%であり、同社の半分以下のかなり低い状況でした。これが何を意味するかと言うと、仮に買収価格がDCF法をベースにして計算されているとすれば、㈱商業藝術の将来キャッシュ・フローが低水準であったため、売上規模の割には割安価格で買収できたのだと想像できます。

加えて、利益率が低いということは、買収後の改善施策によりまずは㈱商業藝術の業績を向上させることができれば㈱ダイヤモンドダイニング(連結)のROEがかなり向上することを意味します。平成29年2月期の同社のROEは16.6%(=親会社株主に帰属する当期純利益/(純資産合計-新株予約権-少数株主持分))でしたが、買収後の㈱商業藝術が㈱ダイヤモンドダイニングと同じ2.1%の親会社株主に帰属する当期純利益率に改善したとすると親会社株主に帰属する当期純利益が162百万円増加するため、買収後のROEは20.8%に上昇します。

つまり、割安価格で買収できる会社を選び買収資金を低く抑えると共に、買収した会社の業績を改善することにより自社の企業価値向上を狙う意図の買収であったと推測できます。

具体的な改善施策は㈱ダイヤモンドダイニングの適時開示書類の平成29年4月27日「株式会社商業藝術(旧商号 Jellyfish.株式会社)の全株式取得(子会社化)に関するお知らせ」で説明されており次のとおりです。

「当社は、商業藝術社の株式を取得することにより、双方が持つブランド及びこれまでに培ってきた業態開発ノウハウ、立地戦略、教育システム、管理システム並びに仕入等を共有し、また、積極的に活用することで企業価値の更なる向上及びコスト削減等のシナジー効果を創出することが可能であると考えております。」

上記では、飲食事業を中心に各種のノウハウを共有することで既存事業の業績を向上することが可能と判断した旨が説明されております。

その他、㈱ダイヤモンドダイニンググループの今後の事業展開に与える影響として次の説明がされております。

「加えて、当社グループが積極的に参入していない、「中国地方での直営飲食店の展開」及び「商業施設等でのノンアルコール業態」を強みとした事業展開を行う商業藝術社が当社グループに参画することで、当社グループ内での、エリア展開領域の拡大及び事業領域の拡充を実現できると考えております。」

その後、「ひいては、当社グループの事業基盤の拡大による企業価値の向上につながるものと判断し」という記述が続き、この買収は今後の事業展開にも有利に働き、グループ全体の企業価値の向上につながると判断した旨が説明されております。